香港の研究者が独自調査!中国政府を激怒させた「検索ワード20」上位3つはコレ

發佈時間 : 2016-2-6 12:45:53

                                       【PHOTO】gettyimages

香港の研究機関がリサーチ

2015年12月30日、中国の著名な人権派弁護士、浦志強(51)が懲役3年、執行猶予3年の刑を言い渡された。浦は、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で中国共産党を批判するコメントを掲載したことで、2014年に拘束されていた。この判決によって、浦は弁護士の資格を剥奪されることになる。

この裁判は、中国政府が最近、インターネット上の言論規制・検閲を強化している事実を如実に表している。中国政府の検閲がどういう状況にあるのか、ここで見ていきたい。

著者の手元には、中国の<検閲ワードリスト>がある。香港大学ジャーナリズム・メディア学センターの研究チームが調査してまとめたこのリスト。中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で削除される発言を可能な限り拾うことで、いま中国でどんな言葉が検閲の対象になっているのかを把握しようとする試みだ。取り組みを行っているのは、同研究チームを率いるキングワ・フー准教授である。

1000人以上のフォロワーのいるユーザー30万人以上と、ランダムに選んだユーザーの発言または写真を追跡、シェアされた回数と削除されるまでの時間を記録することで、もっとも検閲されたワードを浮き彫りにする。つまり、検閲者である中国政府にとって「拡散されたくないもの」を突き止めることが出来るのだ。

同研究チームは、20位までの検閲ワードをリスト化している。リストの中身の一部を見てみよう。

なぜ「プーさん」が検閲の対象になるのか

もっとも検閲を受けたのは、昨年9月3日に「分享图片(写真をシェアします、の意味)」という言葉とともにアップされた「くまのプーさん」のおもちゃの写真だった。リストによれば、一番最初にその投稿がアップされてから、1時間10分ほどで削除されるまでに、シェア数は6万5576回に達している(計算すると、1秒間に15回シェアされていることになる)。

なぜ「プーさん」が検閲の対象になるのか。それは、習近平・国家主席が中国国内で「くまのプーさん」に似ていると揶揄されているからだ(習主席の容姿を思い浮かべてほしい)。

9月3日に行われた抗日戦争70周年の軍事パレードで、習主席は車の屋根から上半身を車外に出して立った姿で颯爽と登場した。それを見たあるSNSユーザーが、その姿や格好にそっくりな「プーさん」のおもちゃの写真をアップすると、あっという間にその投稿が拡散。

ところが、わずか1時間10分の間に削除されたのだ。ちなみに2013年の訪米時にも習主席が「プーさん」に似ていると話題になったが、当時も検閲によって、SNSに投稿されたプーさんの画像が削除されている。

ちなみに軍事パレードまでの時間に検閲は通常以上に活発になったと同研究チームは指摘している。1万件のポストのうち約15件の発言が削除されたという。

検閲ワード2位は、2015年8月12日に天津市で発生した爆発事故に関連するポスト(投稿)。少なくとも173人の犠牲者を出したこの爆発事件では、政治家や役人、警察の癒着による管理の杜撰さが背景にあるとして批判された。

事故の翌日、「(被害者に)祈りを捧げるのでなく責任を問え」と憤る発言がアップされ、6万3669回シェアされた。ところが、これも2時間半後には削除されてしまったのだ(1秒間にシェア6回)。ちなみに「爆発」「噂」といった単語も事故から7日間にわたり検閲の対象となった。

3位は、2位と同じく8月13日のポストだ。その日、遼寧省鞍山でも小規模な爆破と火事が起きており、「鞍山で救助を待つ人はすぐにポストをしろ」というコメントがアップされた。なぜこの人命救助を訴えるポストが削除されたのか。背景には、連続して大規模な人災が起きることで不満や混乱が広がるのを食い止めたいという、政府の意向が働いていたとみられる。

もちろん「チベット」「天安門」はダメ

続いて4位。4月2日にアップされるや、1時間半ほどで削除されたポスト。役人の公私混同ぶりをネットで告発した男性が、ハニートラップによる売春容疑で拘束された一件についてだった。この男性の「売春婦を買ったことを否定する」という発言は2万2000以上シェアされたのだが、すべて削除されてしまった。

リストを眺めていて興味深いのは、トップ20のほとんどが政治・行政がらみであることだ。習近平については4つのポストがランクインしている。

もともと中国では「チベット」「法輪功」「天安門事件」といった、政府が”危険”とみなすワードは、インターネットを監視する「グレート・ファイアーウォール」など自動検閲システムで検知され、発言することが許されない。ネットユーザーがこうしたワードを使うと、インターネットが遮断されたり、監視対象になったりすると言われている。そのため、こうしたワードはここで紹介したリストには含まれない。

基本的に中国当局は、自動検閲以外にも様々な方法を駆使して検閲を行っている。例えば、ウェブサイト運営者やサービスプロバイダー(ISP)などに自己検閲するようプレッシャーをかけ、政府に対して批判的な発言を独自に削除させているのだ。運営者側は削除しないとビジネスを続けられなくなるため、進んで削除を行うようになっている。

ウェイボーでも、2012年以降「ポストしてはいけない言葉」をリスト化して規定している。またウェイボーには現在、社内にブロガーのポストをモニターする部門が設けられている。フー准教授は、その監視者を「1000~2000人と言われている」と指摘するが、彼らが政府の指導を受けてポストを監視しているという。

「政府は直接的に削除を行わない。インターネット・プロバイダーやウェブサイトなどに指示を出しているのです」

さらに政府は人権派弁護士や活動家を拘束して立件することで口封じを行う。簡単に言うと見せしめである。冒頭に紹介した人権派弁護士のケースはまさにこれに当てはまる。

こういう事実を鑑みると、フランスに拠点を置くNGO「国境なき記者団」が「中国は、ネチズンにとって世界最大の刑務所だ」と表現したのも理解出来る。

ウェイボーなどのユーザーはこうした検閲から逃れながら、隠語を使ったり写真をアップするなどして果敢に”発言”を行っている。だがそうした試みも「くまのプーさん」ように当局に発見され、削除されてしまうのである(また、マイクロブロガー自らが摘発などを逃れるために自己検閲して削除するケースもある)。

名目は「テロ対策」だが・・・

フー准教授は、2010年以降、ウェイボーを中心に中国の検閲をモニターしている。そもそも彼がこのプロジェクトを立ち上げたきっかけは何だったのか。フー教授が話す。

「2010年、ウェイボーが中国で新たな”表現の自由”のプラットフォームになり始めていたことがきっかけです。最初は香港大学の少ない予算で開始したのですが、主な目的は、ウェイボーのデータを収集・分析し、それらのデータから検閲されたポストを特定して、再び皆がアクセスできるようにすることだった」

中国の検閲を研究してきたフー准教授は、最近指摘されている政府の検閲強化について、「実はインターネット上の検閲強化は2013年から徐々に始まっていると考えています。例えば、数百万というフォロワーのいるマイクロブロガーたちへのアカウント削除や拘束といった嫌がらせが行われたり、取り締まるための新しい法律がちょこちょこと施行されたりしている」と語る。

例えば、2013年には「噂をネット上で拡散する行為」に罰則が規定されている。この罰則は2015年の8月に大々的に適用され、一気に200人ほどが摘発されている。

この例が示すように、2015年は習近平政権がネット上におけるの”腕力”を強調した年になった。まず、3月にはネットサービスを利用する際の実名登録が義務付けられた。続く7月には国内でのインターネットの主権を明確にし、ネット支配を強化する「国家安全保障法」を可決させた。また同月に公安部は、IT企業などの社内に職員を常駐させる方針も発表している。

そして12月には、政府が「世界インターネット会議」を浙江省で開催し、出席した習近平が「自由とは秩序によってもたらさせる。秩序こそが自由を保障する」と発言。検閲を声高に正当化したのだった。

なお、中国は12月27日に新たな「反テロ法」を可決した。この法によって、政府は「暗号化」したサービスを提供する中国国内のIT企業に、当局の要請があれば暗号を解読できるようにしておくことを義務付けた。

というのも、今アメリカを中心とするIT企業はプライバシーの観点から個人データの暗号化を進めており、犯罪捜査のために個人データにアクセスしたい捜査当局などと議論になっている。中国ではIT企業の言い分は全く通用しないである。

中国政府はなぜここまで検閲を強化するのか。それは、習近平指導部が「ネット空間は、中国共産党が何としてでも支配しなければならないイデオロギーの”主戦場”である」と捉えているからだ。

世界を無視して独自のルールをつくる

中国のインターネット利用者は7億人を超え、その影響力は日々大きなものになっている。昨年12月に珍しく記者団の取材に応じた、中国国家インターネット情報弁公室の魯煒主任は、ネットの影響力についてこう語っている。

「中国には400万のウェブサイトがあり、7億人ほどのインターネットユーザーがいる。モバイルフォンのユーザーは12億人。さらに6億人がウェイボーや(中国のメッセンジャーアプリである)WeChatを使っており、彼らは毎日300億のメッセージをポストしている」

ウェイボーをはじめとする新たなウェブツールが、これまでになかった表現の手段を与えている。ブログなどのポスト数は天文学的であり、検閲も容易ではなくなっていくだろう。「どんな国や組織でも、300億のメッセージを検閲するのは単純に不可能だ」(魯主任)

もうひとつ、検閲を強化する理由がある。中国政府が「インターネットの発展は中国経済にとって必要不可欠な要素」と見ていることだ。事実、2014年のGDPの7%をインターネット関連の産業が支えている。

政府はその重要性を理解しており、例えば国内の接続スピードを改善するために莫大な投資を行うと発表している。インターネットの拡大は経済的な事情から避けられない。そのため、法整備などで検閲を強化しておくことが急務となっているのだ。

また検閲の強化は、世界全体でインターネット上のルールを統一したいと考える欧米諸国に対するメッセージにもなっている。中国は、領土や領空、領海のように、インターネット空間についても「自国の主権をもってコントロールする領域である」と強く主張し続けている。究極的には、国際社会の中においても、独自のインターネット支配や規制を行っていきたいとの見解を明確にしているのだ。

一方で、香港大学のフー准教授はこう言う。

「中国の検閲システムはパワフルだが、政府に批判的な人々を完全に掃討することはできないし、人民の考えを支配することもできない。今でも毎日、私はウェイボーで思慮深く政府に批判的なコメントを目にしている」

増え続けるユーザーと多様化するネットツール。中国政府とウェブユーザーの「攻防」は、これからますます激しくなるだろう。

現代ビジネスhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/47724