外は国境紛争、中は腐敗、中国が抱える政治問題

發佈時間 : 2016-1-28 23:00:18

日本企業にとって中国は非常に重要な国である。例えば、2014年10月時点の中国への進出企業数は3万2667社で、全世界(6万8573社)の約半分を占めている。在留邦人数も13万人を越え、米国についで2番目となっている(進出企業数・在留邦人数の出典は外務省)。

また貿易相手国としては、2014年の日本から中国への輸出額は米国に次ぎ2番目である。中国から日本への輸入額は全輸入額の2割を超え、ダントツの1位となっている。

このように、日本と中国との経済的な結びつきは強く、日本にとって中国は極めて重要な国であると言える。そこで今回から8回にわたり、中国におけるビジネス上のリスクについて見ていく。

取り上げるのは、政治問題、経済問題、社会問題、労務問題、自然災害、治安問題(暴動・テロ等を含む)、コンプライアンス問題(PL・競争法違反等)、現地でのオペレーションに関わる問題(インフラ問題、火災・産業事故・労働災害、医療・感染症、交通事故など)についてである。第1回の今回は中国の政治問題を取り上げたい。

国境紛争と民族問題

中国の政治における最大の特徴は、社会主義国家でありながら市場経済(中国型資本主義)を導入している点である。

4つの基本原則──(1)社会主義の道、(2)人民民主独裁、(3)共産党の指導、(4)マルクスレーニン主義・毛沢東思想の堅持等──は憲法にも明記されており、時代の移り変わりと共に徐々に変容しているものの、これを堅持する姿勢は変わっていない。

そのため、中国では多党制が否定され、実質的な一党独裁体制であり、三権分立も否定されている。同時に、私有財産制も否定されているものの、実際には市場経済の導入に伴ない、現在では非常に大きな所得格差が発生している。

一般的に大国と言われる国は多くの国境を有しており、それに伴い周辺国との間で国境紛争を抱えていることが多い。中国の国境の数はロシアと共に世界で最も多いとされている。実際に中国は日本との尖閣諸島問題の他、西沙諸島(パラセル諸島)問題、南沙諸島(スプラトリー諸島)問題、インドとの国境問題など、多くの国境紛争を抱えており、そのことが諸外国との外交問題を誘発している。

北朝鮮に関しては、同国の国際社会の孤立化と不安定化に伴う問題にも腐心しており、極めて難しい対応を迫られている。また台湾問題についても、香港・マカオにおける1国2制度を基に台湾との融合を図っているが、台湾市民の多くが懸念を有している。そのため、中台関係についても慎重な対応を迫られている。

大国は一般的に民族・文化・言語などが多様化しており、多民族国家となっていることが多い。中国も、主要民族である漢民族が91.6%(米国CIA)を占めているが、55の少数民族が認められており、各自の言語、文化を維持する権利が保証されている。一方で、一部民族(ウィグル族、チベット族、モンゴル族等)は、分離独立・高度な自治権を求める動きを続けており、テロなどの過激な活動が発生している状況である。

最大の政治問題は深刻な腐敗・汚職

大国は、連邦制が敷かれ、行政組織が階層化されていることが多い。中国においても中央政府・省・市・県・郷(鎮)・村等からなる重層組織となっており、そのそれぞれに公務員がいる。また、そのそれぞれに共産党委員会が設置されており、同様に多くの関係者が配置されている。そのため、各層の権限等も細分化されていることから、汚職行為が発生しやすい。

汚職・腐敗問題に対する一般市民の不満は大きく、年間20万件以上発生するとされる暴動等の大きな原因ともなっている。汚職・腐敗の問題は中国における最大の政治問題であると言える。

外国公務員への贈賄禁止については、OECD外国公務員贈賄防止条約が1999年2月に発効し、OECD加盟国を中心に現在約40カ国が同条約に締約しており、国際社会でも取り組みが図られている。

同条約の締約国は、外国公務員に対する贈賄などを禁止する国内法を制定している。特に米国では連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)に基づいて日本企業を含む多くの海外企業を摘発し、巨額な罰金を課すケースが数多くある。

米国で摘発された例では、汚職・腐敗が実行された国の大部分が新興国である。特に中国で実行されたケースはナイジェリアと共に最も多くなっている。そのため、中国において、企業の対応如何によっては米国等から摘発される可能性が大きく高まることに十分留意する必要がある。

一般的に、中国では国営企業の関係者を含めると、国民の20人に1人は公人とも言われる。そのため、ほんの一部の汚職行為であっても、件数的には非常に大きなものになると言える。例えば、Transparency Internationalが毎年発表している腐敗認識指数のランキング(ランキングが下がれば下がるほど腐敗している)で中国は175カ国中100位となっており、年々ランキングを下げる傾向となっている。

習近平国家主席は2013年の就任以降、汚職撲滅に向けた取り組みを加速し、共産党および国有企業等の幹部クラスの摘発を大々的に進めている。しかしながら、汚職対策がトップダウンによる訴追・処罰に重点を置く形態となっていることから、実効性については、疑問視する向きも多い。

山積する政治問題

中国では、1989年6月4日の天安門事件(六四天安門事件)以降、中国共産党の正当性とナショナリズム高揚のため、愛国主義教育が推進された。特に歴史教科書では日中戦争に関する記述が多く盛り込まれている。そのため、靖国神社参拝問題、日本の歴史教科書問題等の政治問題への対応については、(日本に対し)強硬な姿勢を堅持している。

また、最近においては、大規模な対日抗議活動(反日暴動)が2005年4月、2010年9~10月、2012年8~9月の計3回発生している。特に、3回目の2012年8~9月に発生した反日暴動では多くの日本企業が襲撃を受け、被害を受けた。その他、対日本の輸出入の通関が遅延したり、労働許可がなかなか認められない等の経済的な問題も発生している。

さらには、既述の尖閣諸島問題、東シナ海のガス田開発問題などもあり、日中間の政治問題は山積している状況である。

2016.1.28(木) 茂木 寿 JBPress